入れ歯生活

誤嚥性肺炎の原因と対策方法は?

誤嚥性肺炎発症の原因と対策方法は?

ささいな口の機能の低下が咀嚼[そしゃく]・嚥下[えんげ]障害に

「咀嚼[そしゃく]」とは、食べ物を口に入れて噛み砕き、唾液と混ぜ合わせながら飲み込むまでの過程のことです。「嚥下[えんげ]」とは、咀嚼により飲み込みやすいように形成された食べ物の塊が口から喉を通り食道から胃へと送られる一連の動作のことをいいます。年齢を重ねていくと、咀嚼から嚥下までのプロセスが段々と上手くいかなくなる傾向が出てきます。


入れ歯で噛むことや飲み込むことが難しいと感じている方は、下記の症状がないかをチェックしてみましょう。

  1. 滑舌が悪くなった
  2. 食べこぼしが増えた
  3. 少しむせることが増えた
  4. 噛めない食品が増えた

もし、1つでも該当する方は、口の機能がやや低下しているのかもしれません。最初は、ささいな口の機能の低下であっても、そのまま放置してしまうと更に口の機能が低下してしまい、下記のような症状が現れます。

  1. 唾液の分泌が減少して口が乾き、口の中が不潔になる
  2. 噛む力が更に弱くなる
  3. 舌の力が低下する
  4. 口唇や舌の運動が難しくなる

この状態から口腔機能の低下が進行すると、「咀嚼・嚥下障害」となり、口からの食事が著しく困難になる可能性があります。咀嚼・嚥下障害にならないためのポイントは、食べこぼし・むせが増えた等の最初の小さな口の機能低下に気づいた時に、すぐに歯科医院を受診することです。また、定期的に歯科医院で検査を受けるのも大切です。

咀嚼・嚥下障害により入れ歯が不安定になる原因とは?

咀嚼・嚥下障害により入れ歯が不安定になる原因とは?

噛みにくい、飲みにくいという症状が出ると、入れ歯が外れやすくなるなどの問題も起こりやすくなります。まずは、入れ歯が口の中で安定するための3つの主なポイントを説明します。

1.入れ歯の形態

入れ歯の形態が口の中と一致していることや、顔や口の動きに合った形態であることが大切です。入れ歯が合わないと、しっかり噛んだり、クリアな発音ができないため、食事中や会話中に入れ歯が外れやすくなります。部分入れ歯でも、歯にかけるクラスプが上手くフィットしていないと、痛みが出たり、歯ぐきが痩せる原因になります。

2.唾液の量

入れ歯と口の粘膜の間に唾液が行き渡ると、天然の義歯(入れ歯)安定剤のような役割を担うため、入れ歯は外れにくくなります。一方で、薬の副作用や加齢が原因で唾液の量が減少すると、入れ歯が外れやすくなり、粘膜に傷が付きやすくなる場合があります。

3.口や喉の周りの筋肉

入れ歯の形や唾液の分泌量に問題が無かったとしても、口や喉の周りの筋肉が衰えてしまうと入れ歯を上手く支えることができず、外れやすくなる場合があります。

咀嚼や嚥下の機能が低下すると、唾液の減少や、口・喉の周囲の筋力が低下する傾向があるため、結果的に入れ歯の安定が悪くなってしまうというわけです。

不衛生な入れ歯が原因で肺炎に?

不衛生な入れ歯が原因で肺炎に?

厚生労働省が平成29年に発表した「性別にみた死因順位(第10位まで)別死亡数・死亡率(人口10万対)・構成割合」によると、肺炎で亡くなった人が約96,000人で5位という結果で、誤嚥性肺炎で死亡した人が約35,000人で7位ということが分かりました。

口の中の食べ物や唾液が気管に入ってしまうことを誤嚥 [ごえん] といいますが、この誤嚥によって口の中の細菌が気管から肺に入り、肺炎になることを「誤嚥性肺炎[ごえんせいはいえん]」といいます。入れ歯の掃除が不十分なまま装着していると、入れ歯に付着した細菌が増殖し、気管に入った時に誤嚥性肺炎を発症する可能性が高くなります。また、加齢によって咳反射(気管に侵入した異物を排出するための防衛反応)の機能が低下してしまい、不顕性誤嚥(むせない誤嚥)というものも起きやすくなるので注意が必要です。

誤嚥性肺炎の主な症状
  1. 発熱・咳・濃い痰など、風邪症状が長期間続く
  2. 食事中にむせることが多い
  3. 食事に時間がかかる
  4. 食べ物が上手く飲み込めない
  5. 息切れが多くなった
  6. 身体がだるい

誤嚥性肺炎を予防するためのポイント

誤嚥性肺炎を予防するためのポイント

次に、誤嚥性肺炎を予防するための主なポイントを説明します。

1. 口の中を清潔に保つ

口の中の細菌が誤嚥性肺炎の主な要因になるので、日々の口腔ケアにより、口の中の細菌を減らすことが重要です。食事をする前に歯磨きをして口の中の細菌を減らすことも、誤嚥性肺炎予防のためのポイントの一つです。虫歯や歯周病がある人は必ず歯科医院で治療し、虫歯や歯周病がない人は歯垢(プラーク)や歯石が歯に付いていないか、定期的に歯科医院でチェックを受けることをおすすめします。
また、入れ歯にも口の中の細菌が付着するので、日々のお手入れを行いましょう。就寝前は、義歯(入れ歯)用ブラシで入れ歯を磨き、義歯洗浄剤に入れて、入れ歯を清潔に保つように心掛けましょう。

2. ながら食べをしない

テレビやスマートフォンを見ながら食事をすると、食事より見ることに集中してしまいがちです。噛む回数も減り誤嚥しやすくなる傾向があるため、食事だけに集中することをおすすめします。

3. 唾液腺マッサージを行う
唾液腺マッサージを行う

人間には大きな唾液腺が3つあります。顎の下に顎下腺[がっかせん]、舌下腺[ぜっかせん]があり、耳の前に耳下腺[じかせん]という唾液腺があります。唾液は口の中の細菌が増えないようにするための重要な役割を担っています。顎の下や耳の前を指先で優しくマッサージすることで、唾液の分泌が促進され、虫歯・歯周病の予防やドライマウスの改善につながる場合があります。

4. 口や喉の周りの筋肉を動かす体操をする

口や喉の周囲の筋肉を動かして鍛えることで、咀嚼・嚥下がスムーズになり、誤嚥する可能性が低くなります。口や喉の筋肉を動かす体操の一例を説明します。

あいうべ体操
あいうべ体操

あいうべ体操は、「あ」「い」「う」「べ」と口を大きく動かして発声する、口と喉の運動です。目安としては、1日に30セットを2回から3回行います。浴室の湿度は高く、口の中が乾燥することが少ない入浴時に行うのが良いでしょう。また、生理学的に就寝中は唾液の分泌量が少なくなるため、就寝前に体操を行うと唾液の量をある程度補うことが可能です。

あいうべ体操の主なメリット、留意点 メリット
  1. 食事がしやすくなる
  2. 入れ歯が安定しやすくなる
  3. 虫歯や歯周病の予防につながる
  4. ドライマウス・口臭の改善できる場合がある
  5. 顔のリフトアップにつながる
  6. イビキが少なくなる可能性がある
留意点
  1. 「あ」と「べ」の発音をした時に、入れ歯が外れることがある
  2. 入れ歯が外れて上手く発音できない方は、無理をせず「い」と「う」をしっかりと発音するようにしましょう。
  3. 顎の負担になるため、体操のやり過ぎに注意する
  4. 体操をやりすぎると顎が痛くなることもありますので、適度に行いましょう。元々、顎が痛い方も無理のない範囲で行いましょう。

以上のように、口の中と入れ歯を清潔に保ち、食事の仕方にも気をつけて、唾液腺マッサージや、口や喉を鍛える体操を行うことで、誤嚥性肺炎を予防できる可能性が高くなります。

監修ドクター
岡山大学 医歯薬学総合研究科
医歯薬学総合研究科・生体材料学分野

松本 卓也 教授